本ブログでは、
残業代請求に関する裁判例を紹介しています(つづき)。
2 原告の時間外賃金の額について
(一)平成七年一月から平成八年一〇月まで
(1)原告は平成七年一月から同年四月までに少なくとも合計二〇時間の時間外勤務(残業)をし、同年五月から平成八年一〇月までの間に少なくとも合計五七時間の時間外勤務(残業)をしていること、これに対する賃金が支払われていないことは前記第三の一3、第三の二1のとおりであるが、原告が平成五年一一月初旬ころ佐藤修との間で月給制の具体的な内容について話し合った際に原告の賃金を月給制とした後も従前どおり時間外賃金を支払うという話は出なかったこと、原告が平成五年一二月から平成八年一〇月までの間も時間外勤務(残業)をしていたにもかかわらず、被告はこの時間外勤務(残業)時間数に相当する時間外賃金を支払っていなかったが、原告からはその支払がないことについて格別異議は出なかったこと(前記第三の一4)、佐藤修は、その証人尋問において、日給月給制を月給制に変更する利点について月給制では天候に左右されることなく一定額の給料の支払が保証されることになることを挙げていることからすると、原告は被告との間で原告の時間外勤務(残業)時間については賃金を支払わないことを合意したものと考えられないでもない。
(2)ところで、仮に原告と被告が右のような合意をしたとしても、右の合意が原告が幾ら時間外勤務(残業)をしても一か月当たり金四一万円の給料のほかには労働基準法三七条一項に規定する割増賃金(残業代)を支払わないという趣旨の合意であるとすれば、右の合意は労働基準法三七条一項に違反するものとして同法一三条により無効であるというべきである。
しかし、右の合意が原告の時間外勤務(残業)に対する割増賃金(残業代)分を含めて原告の一か月当たりの給料を金四一万円とすることを合意したというのであれば、右の合意は労働基準法三七条一項に違反していないといいうる余地がないではないが、右の合意が労働基準法三七条一項に違反しないといいうるのは、一か月当たりの原告の時間外勤務(残業)時間数が原、被告の合意が定められている場合であると解されるところ、原告の時間外勤務(残業)時間数が毎月何時間になるかは工事の内容や期間などによって左右され、毎月時間外勤務(残業)時間数が一定であることは考え難いこと、現に平成七年一月から平成八年一〇月までの原告の時間外勤務(残業)時間数(ただし、原告が昼間作業から引き続いて行われた夜間作業に従事したことによる時間外勤務(残業)時間数を除く。)は毎月一定していないこと(前記第三の一3)、以上の点に照らせば、仮に原告と被告が原告の時間外勤務(残業)時間については賃金を支払わないことを合意したとしても、原告と被告がそのような合意をするに当たって一か月当たりの原告の時間外勤務(残業)時間数を定めてその時間外勤務(残業)に対する割増賃金(残業代)分を含めて原告の一か月当たりの給料を定めたとは到底考えられないのであって(現に右のように定めたことを認めるに足りるに証拠はない。)、そうすると、原告の時間外勤務(残業)については賃金を支払わないという原告と被告との間の合意が労働基準法三七条一項に違反しないといいうる余地はないものというべきである。
(3)以上によれば、仮に原告と被告が右の(1)で述べたように原告の時間外勤務(残業)時間については賃金を支払わないという合意をしたとしても、その合意は労働基準法三七条一項に違反して無効であり、したがって、被告は平成七年一月から平成八年一〇月までの原告の時間外勤務(残業)に対する賃金を支払う義務を負っているものと認められる。
(4)そこで、月給制における原告の一時間当たりの時間外賃金を計算するに、
ア 一時間当たりの割増賃金(残業代)は通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ命令で定める率以上の率で計算した金額であり(労働基準法(平成五年法律第七五号による改正後のもの)三七条一項。なお、労働基準法第三七条第一項の時間外及び休日の割増賃金(残業代)に係る率の最低限度を定める政令(平成六年一月四日政令第五号)は、労働基準法三七条一項の命令で定める率は時間外労働(残業)については二割五分とすると定めている。)、通常の労働時間とは当該事業所の所定労働時間であり、月によって定められた賃金の一時間当たりの割増賃金(残業代)は、一月当たりの賃金額を月における所定労働時間数で除した金額である(労働基準法施行規則一九条一項四号)が、月給制においては月によって所定労働時間数が異なるのが通例であるから、月給制における一時間当たりの割増賃金(残業代)は、一月当たりの賃金を一年間における一月平均所定労働時間で除した金額ということになる(労働基準法施行規則一九条一項四号)。
イ ところで、証拠(〈証拠略〉)によれば、次の事実が認められる。
被告の就業規則には、次の定めがある。
(ア)第六条(勤務時間)
勤務時間は、休憩時間を除き、実働一日八時間とする。
(イ)第一〇条(休日)
休日は原則的に次のとおりとする。
(a)第一日曜日、第三日曜日
(b)雨天等により野外作業が困難な場合
(ウ)第一一条(休日の振替)
業務の都合でやむを得ない場合は、前条の休日を一週間以内の他の日と振り替えることがある。
前述の場合、前日までに振替による休日を指定して作業員に通知する。
(エ)第一四条(休日労働)
業務上必要がある場合は、第一〇条の休日に労働を命ずることがある。
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