労働法問題(残業代請求、サービス残業問題など)に力を入れている顧問弁護士(法律顧問)が、日々扱うテーマをブログにメモしています。
今日扱うテーマは、年俸制と残業代についてです。
年俸制とは、賃金の全部または相当部分を労働者の業績などに関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度です。年俸制それ自体には、時間外労働の割増賃金を免れさせる効果はなく、管理監督者や裁量労働制の要件を満たさない限り、割増賃金支払義務を免れることはできなません。そして、年俸の中で、所定時間労働の対価と所定時間外労働の対価を区別する必要があります。
この問題について、創栄コンサルタント事件の大阪地裁判決(平成14.5.17)は、以下のように述べています。
「年俸制を採用することによって,直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし,そもそも使用者と労働者との間に,基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり,使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても,労働基準法37条の趣旨は,割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから,基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては,これを同法に違反するとまでいうことはできないが,割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は,同法同条に違反するものとして,無効と解するのが相当である。
そうすると,上記認定事実によれば,被告における賃金の定め方からは,時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定することはできず,そもそもどの程度が時間外割増賃金部分や諸手当部分であり,どの部分が基本給部分であるのか明確に定まってはいないから,被告におけるこのような賃金の定め方は,労働基準法37条1項に反するものとして,無効となるといわざるを得ない。 」
他方、モルガン・スタンレー(割増賃金)事件の東京地裁判決(平成17.10.19)は、以下のように判断しています。
「以上の認定事実によれば,〔1〕原告はこれまで東京銀行,メリルリンチ証券,被告に勤務していたところ,東京銀行時代は超過勤務手当の支給を受けており,所定時間外労働をすれば超過勤務手当が発生することを知っていたこと,〔2〕しかるに,原告は,外資系インベストメントバンクであるメリルリンチ証券,被告に勤務しているときには,超過勤務手当名目で給与の支給を受けていないことを認識しながらこれに対し何ら異議を述べていないこと,〔3〕被告が原告に対し入社の際交付したオファーレターによれば,所定時間を超えて労働した場合に報酬が支払われるとの記載はされていないこと,〔4〕原告の被告での給与は高額であり,原告が本件で超過勤務手当を請求している平成14年度から同16年度までの間,基本給だけでも月額183万3333円(2200万円÷12=183万3333円)以上が支払われていること,〔4〕被告は原告の勤務時間を管理しておらず,原告の仕事の性質上,原告は自分の判断で営業活動や行動計画を決め,被告はこれに対し何らの制約も加えていないこと,〔5〕被告のような外資系インベストメントバンクにおいては,原告のようなプロフェッショナル社員に対して,所定時間外労働に対する対価も含んだものとして極めて高額の報酬が支払われ,別途超過勤務手当名目でのの支払がないのが一般的であることが認められる。
以上の事実に,被告の原告に対する基本給は毎月支払われ,裁量業績賞与は,支払の有無,支払額が不確定であることに照らすと,原告が所定時間外に労働した対価は,被告から原告に対する基本給の中に含まれていると解するのが相当である。そして,原告は,被告から,毎月,基本給の支給を受け,これを異議なく受領したことにより,当該月の所定時間外労働に対する手当の支給を受け,これに対する弁済がされたものと評価するのが相当である。」
つまり、基本的な考え方としては、原則として、年俸の中で所定時間労働の対価と所定時間外労働の対価を区別する必要がありますが、例外的なケースにおいては区別が不要と判断される可能性もあるということです。
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