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労務問題(残業代請求、サービス残業など)を中心に扱う顧問弁護士(法律顧問)によるメモ
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今回は、顧問弁護士が業務上関わりうる企業法務系の判例を紹介しています。
1 本件は,被上告人の取締役であった上告人が取締役退任に際し支給を受けた退職慰労金について,被上告人が,株主総会の決議が存在しないことなどを理由に,上告人に対し,不当利得返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づき上記退職慰労金相当額の支払を求める事案である。
2 原審が確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)被上告人は,昭和36年に亡Aによって設立された株式会社であり,同人が発行済株式総数の約99%を保有していたが,平成18年当時は,同人の子である被上告人代表者が発行済株式総数の99.24%を保有していた。
(2)上告人は,昭和47年9月,被上告人の常勤取締役に就任し,平成17年12月末日,退任した。
(3)被上告人の取締役会において,昭和48年11月30日,役員の退職慰労金の算定基準等に係る内規を定める旨の決議がされ,平成4年3月31日,これを改定する旨の決議がされた。上記改定後の内規(以下「本件内規」という。)には,退職慰労金の支給は常勤取締役及び常勤監査役に限り,普通退職(任意退職)の場合の退職慰労金の額は退職時の報酬月額に在任期間の年数を乗じた額とする旨の定めがある。
(4)被上告人においては,退任取締役に対する退職慰労金は,通常は,事前の株主総会の決議を経ることなく,次の手続により支給されていた。
ア 代表取締役は,経理部の担当者に対し,当該取締役に支給すべき退職慰労金の額の算定を指示する。
イ 代表取締役は,経理部の担当者が本件内規に従って算定した退職慰労金の額を確認し,その支給について決裁する。
ウ 代表取締役は,上記退職慰労金を当該取締役に送金するよう改めて指示する。
エ 代表取締役は,次期の定時株主総会において,支給済みの退職慰労金の額を退任取締役ごとに明らかにして,計算書類の承認を受ける。
(5)被上告人代表者は,平成18年2月ころ,上告人に対し,退職慰労金を支給しない意向を告げた。そこで,上告人が、弁護士を通じ,同年3月2日付けの内容証明郵便をもって,本件内規に基づく退職慰労金の支給をするよう催告をしたところ,同月13日,被上告人から,本件内規に従って算定された額である4745万6433円が送金されたが(以下,この送金を「本件送金」といい,本件送金に係る金員を「本件金員」という。),本件送金は,株主総会の決議も,被上告人代表者の決裁も経ずにされたものであり,本件送金後に開催された定時株主総会において承認を受けた計算書類においても,上告人に対して支給された退職慰労金の額は明らかにされていない。
(6)被上告人は,平成18年10月3日,民事再生手続開始の決定を受けた。被上告人は,平成19年2月21日,上告人に対し,同月20日付けの内容証明郵便をもって,本件送金は適法な退職慰労金の支給とは認められないとして,本件金員の返還を求めたが,上告人はこれを拒否した。 
(7)上告人は,本訴において,本件請求は信義則に反し,権利の濫用に当たるなどと主張している(以下,この主張を「信義則違反等の主張」という。)。
3 原審は,上記事実関係の下において,上告人に対し退職慰労金を支給する旨の株主総会の決議等は存在せず,上告人が本件金員の支給を受けたことは,法律上の原因を欠き不当利得になるとした上で,上告人の信義則違反等の主張について,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 被上告人代表者が,上告人に対し,本件内規に基づく退職慰労金の支給をする旨の意思表示をしたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はないし,被上告人は,法の定める手続にのっとって設立された株式会社であり,民事再生手続開始の決定を受けているところ,被上告人の現役員及び元役員を除く再生債権者等との関係を考えれば,本件請求が信義則に反し,権利の濫用に当たるとはいい難い。
4 しかしながら,信義則違反等の主張に係る原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 上告人に対し退職慰労金を支給する旨の株主総会の決議等が存在しない以上は,上告人には退職慰労金請求権が発生しておらず,上告人が本件金員の支給を受けたことが不当利得になることは否定し難いところである。しかし,前記事実関係によれば,被上告人においては,従前から,退任取締役に対する退職慰労金は,通常は,事前の株主総会の決議を経ることなく,上記2(4)記載の支給手続によって支給されており,発行済株式総数の99%以上を保有する代表者が決裁することによって,株主総会の決議に代えてきたというのである。そして,上告人が,弁護士を通じ,平成18年3月2日付けの内容証明郵便をもって,本件内規に基づく退職慰労金の支給をするよう催告をしたところ,その約10日後に本件金員が送金され,被上告人においてその返還を明確に求めたのは,本件送金後1年近く経過した平成19年2月21日であったというのであるから,上告人が,本件送金の担当者と通謀していたというのであればともかく,本件送金について被上告人代表者の決裁を経たものと信じたとしても無理からぬものがある。また,被上告人代表者が,上記催告を受けて本件送金がされたことを,その直後に認識していたとの事実が認められるのであれば,被上告人代表者において本件送金を事実上黙認してきたとの評価を免れない。さらに,上告人は,上告人が従前退職慰労金を支給された退任取締役と同等以上の業績を上げてきたとの事実も主張しており,上記各事実を前提とすれば,上告人に対して退職慰労金を不支給とすべき合理的な理由があるなど特段の事情がない限り,被上告人が上告人に対して本件金員の返還を請求することは,信義則に反し,権利の濫用として許されないというべきである。このことは,被上告人代表者が,上告人に対し,本件内規に基づく退職慰労金を支給する旨の意思表示をしたと認めるに足りず,被上告人が民事再生手続開始の決定を受けているとしても,異なるものではない。
 そうすると,上記催告を受けて本件金員が送金されたことについての被上告人代表者の認識や上告人の業績等の事実について審理判断せず,上記特段の事情の有無についても審理判断しないまま,被上告人代表者が本件内規に基づく退職慰労金を支給する旨の意思表示をしたと認めるに足りず,被上告人が民事再生手続開始の決定を受けていることのみを説示して,本件請求が信義則に反せず,権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,審理不尽の結果,法令の適用を誤った違法があるといわざるを得ず,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,信義則違反等の主張の当否について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
その他、個人の方で、逮捕などの刑事事件不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題残業代の請求などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。
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